ロシア・ウクライナ戦争に見られるように現代戦は今も火力の優劣が勝敗を決する!
『自衛隊砲兵─火力戦闘の主役、野戦特科部隊』
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荒木肇著
A5判256ページ/定価2200円+税/5月16日発売
「戦場の女神」と称される砲兵は、ロシア・ウクライナ戦争が示すとおり、現代戦でも勝敗を左右する重要な兵科である。陣地構築から測量、射撃まで砲兵の基本的な任務や運用をイラスト付きで解説し、現用火砲や退役装備の概要も紹介。現職の特科隊員のみが知る実務的な知見を盛り込み、砲兵の実態に迫る。さらに陸上自衛隊発足以来の野戦特科の歴史や装備の変遷およびスタンド・オフ防衛能力や領域横断作戦能力の強化など、新たな防衛戦略のもとでの野戦特科部隊の役割と火力戦闘のあり方をさぐる!
「野戦特科の運用は、感覚的な経験や任務遂行への〝根性論〟ではなく、あくまでも弾道学などの理論や科学的知見に基づくことが大切です」(佐野1尉)
「19式装輪自走155ミリ榴弾砲は速やかに射撃準備できること、路上や市街地の舗装上に展開できることなど、ほかの火砲にはない機能に当初は驚くことばかりでした(湯川2曹)
「12式地対艦誘導弾は現在進められている改良で今後、スタンド・オフ火力の中心として、その存在意義は一層大きくなっていくでしょう」(栗野3佐)
「気象班員の任務は正確迅速に情報を上げ、火砲の戦力発揮に貢献することです。そのため、気象学の基礎や必要な知識、技能を学び、天気図の作成や気象予報などの業務も行ないます」(山﨑2曹)
「FCCSは今もソフトウェアや機能のアップデートがあり、運用や操作の要領が改善されています」(藤野3曹)
著者の言葉
2022(令和4)年2月24日、ロシア軍はウクライナに侵攻した。その突然の開戦から3年を過ぎた。
当初、首都キーウの早期占領に失敗したロシア軍は戦線を縮小し、兵力を再編しなければならなくなった。次には東部ドンバス地域に圧倒的な戦力を集中するが、ウクライナ軍の防禦陣地を突破できなかった。作戦目的を達成できずに、ロシア軍は膨大な装備と兵員を失うことになった。
一方でウクライナ軍は西側装備の供与と各種支援を受けた。2023年6月以降、南部地域でウクライナ軍も攻勢を開始したが、今度はロシア軍の強固な防禦陣地に前進できず、戦線は膠着状態に陥ってしまった。
この間に、戦場についての報道が続いた。当初では「ジャベリン」や「NLAW」を中心とした携帯式対戦車ミサイルが戦果を上げた。「バイラクタルTB2」などの「UAV(無人航空機)」が南進するロシア軍部隊に大きな損害を与えた。
そこですぐさまわが国の報道では「戦車不要論」などが声高に発せられた。安価なドローンさえあればいい、高価な重装備は意味を持たなくなったと言う人までいた。
しかし、砲兵の活躍については一般向けにほとんど語られなかった。ところが、ウクライナ軍の砲兵の射撃は大きな戦果を挙げていた。
元自衛隊富士学校長・陸将の井上武氏によれば、英国王立防衛安全研究所(RUSI)は、その報告書で砲兵の活躍にも注目していた。
この地域に投入されたウクライナ軍の2個砲兵旅団は、その遠距離火力を発揮して、短期間でキーウ占領を企図するロシア軍を混乱させ、侵攻速度を遅らせ、部隊行動を妨害し、撃破するなどでウクライナ軍の作戦を密接に支えたのである。
続いて東部ドンバス地域でのロシア軍の攻勢作戦は砲兵戦を重視した。ロシア軍は圧倒的な砲兵火力でウクライナ軍を圧倒する。ウクライナ軍は備蓄してきた弾薬(6週間分)も枯渇してきてしまった。ロシア軍は2022年6月末には、戦略的要衝であるセベロドネツク市の占領も含めて、支配地域を拡大した。
その頃には西側諸国から供与された火砲や弾薬も前線に到着し、逐次戦闘に加入したが、それも十分な火力とはいえなかった(井上武「露宇戦争における砲兵戦の実体と教訓(前段)」陸修偕行社機関誌『偕行』令和6年5・6月号)。
そんな頃に「野戦特科(砲兵)を取り上げて、世間にあまり知られていない実態を書いたらどうか」と元陸上自衛隊研究本部長・陸将の松尾幸弘氏が勧めてくれた。
第1部では、砲兵とは何か、陸上自衛隊砲兵の戦い方や砲兵の真骨頂とは何か、どのような装備があるか、現場に立つ自衛官はどのような戦い方を訓練しているのかを紹介することにした。
「砲兵は耕し、歩兵は占領する」といった古くからの言葉は、現在も真理だった。「戦場の女神」といわれた砲兵は、今でも勝利を左右する決定的な兵科であることは、ロシア・ウクライナ戦争からもわかる確かな事実である。砲兵の仕事、陣地を築き、測量し、射撃するシステムをわかりやすくイラストなども交えて解説した。富士学校特科部の各位による貴重な教示を受けることができた。
第2部では、現用の火砲、155ミリ榴弾砲FH70や99式自走155ミリ榴弾砲、19式装輪自走155ミリ榴弾砲、12式地対艦ミサイルについて説明した。ここの内容はまさに火砲を扱い、整備し、訓練を重ねている現職特科隊員でしか知らないことも含んでいる。また、現在では退役した特科装備もその概要を紹介した。
第3部では、陸上自衛隊発足以来の野戦特科の歴史の一部をふり返ってみた。参考になったのは陸上自衛隊富士学校特科部編の『日本砲兵史』(原書房、1980年)である。この第3部の記述内容については、防衛研究所戦史研究室の有志にご指導をいただいた。
また、「領域横断作戦」についても解説し、そこでの砲兵の期待される役割についてふれてみた。2023(令和5)年に発表された防衛力整備計画(安全保障関連3文書の一つ)に基づいた今後の装備開発の概要や、装備の最適化などの概要についても調べてみた。
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目 次
第1部 野戦特科部隊の火力戦闘
第1章 特科部隊の役割
第2章 野戦特科部隊の火力戦闘
第3章 射撃の目的と効果
第2部 野戦特科部隊の装備
第4章 現有火砲の機能と運用
第5章 野戦特科の歴代火砲
第6章 地対地ロケットと地対艦ミサイル
第7章 観測、情報処理・指揮・統制機材
第3部 野戦特科部隊史
第8章 警察予備隊~保安隊時代(1950~54年)
第9章 創設期の陸上自衛隊と特科部隊(1954年)
第10章 陸上自衛隊の体制改革と近代化(1955~70年)
第11章 戦力基盤の充実と技術革新(1976~86年)
第12章 戦略環境の激変と陸上自衛隊の新体制(1986~2010年代)
第13章 新時代の野戦特科部隊
【コラム①】火砲の種類と特徴
【コラム②】火砲の構造と仕組み
【コラム③】弾薬とその構成品
【コラム④】高射特科部隊──装備と運用の変遷
【コラム⑤】礼式と礼砲
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951(昭和26)年、東京生まれ。横浜国立大学大学院教育学修士課程を修了。専攻は日本近代教育制度史、日露戦後から昭和戦前期までの学校教育と軍隊教育制度を研究している。陸上自衛隊との関わりが深く、陸自衛生科の協力を得て『脚気と軍隊』、武器科も同じく『日本軍はこんな兵器で戦った』を、警務科とともに『自衛隊警務隊逮捕術』を上梓(いずれも並木書房刊)。陸軍将校と陸自退職幹部の親睦・研修団体「陸修偕行会」機関誌『偕行』にも軍事史に関する記事を連載している。(公益社団法人)自衛隊家族会の理事・副会長も務め、隊員と家族をつなぐ活動、隊員募集に関わる広報にも協力する。